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                                          市川直美のブログ

 

 

本ブログは保健師の市川直美が執筆しています。

 


 

2024-08-17

「発言をしない学生」に思うこと

 

私が気になっている現代日本におけるコミュニケーションの問題は、講師を務める看護学校で、授業開始後クラスのほとんどの学生が周囲の反応を気にして発言を全くしないことである。

この問題の主な背景は2つあると分析する。

一つは、対話の経験不足である。子供会や地域の交流があった時代は、親しくない人や年上の人と対話をする場が日常の中にあった。しかし、現代になり日本の社会からこうした場が失われ、学生は多様な対話の経験を積むことができないのである。

もう一つは、相手の意見を認めるリアクションのスキルを使うと、お互いに意見が言いやすくなることを学生が知らないことだ。欧米とは異なり、「察する文化」が根付く日本では、発言をしない学生に対する対話のスキル教育が遅れているのである。

解決策は、学生が相手の意見を認めるリアクションのスキルを学び、授業で対話の実践経験を積むことである。その具体策として、私が行った成功例を提案したい。

まず、学生にリアクションを教えてこれをルールとし、同世代で行うグループワークで実践経験を積ませた。教えたルールは、発言者の意見に「にこやかに『いいね』と言いうなずく」というリアクションである。授業後、「発言がすごく言いやすくなった」「他の人の意見が聞けるようになって楽しい」「為になる方法だ」という感想が寄せられている。沈黙だったグループからも、「いいね」を喚起する声が聞こえるようになった。

次に、クラス全員に一人ずつ、順番に発言を促し、講師の私が笑顔で「いいね」と発表ごとに拍手をして見せた。すると、私を真似て拍手をしたり、言葉が出ない学生に「大丈夫」と声を挙げたりする学生が現れるようになった。クラス全体でコミュニケーションをとる授業に変わったのである。

このようなことから、学生が対話のスキルを学び、授業で対話の経験を積むことが有効な解決策である。

 

2024-08-17

「サービス付き高齢者住宅」に思うこと

 

私が重要だと考える問題は、サービス付き高齢者住宅(以下、サ高住)の居室にキッチン設備がないことである。なぜなら、「食事は提供されたものを食べる」ということを基準にした設計だからである。

自宅で暮らす健康な60歳以上の高齢者を対象にした調査によると、電子レンジや冷蔵庫、電気ポットなどの台所家電を毎日使用する高齢者の割合は高かった。サ高住の入居者も、基本的には自立した60歳以上や軽度レベルの要介護者である。自宅では食生活を営む行為があった入居者もいる。しかし、「食事は提供されたものを食べる」居室環境には、そうした食生活を営むための身体機能を低下させる危険がある。一方で、現状、居室にキッチン設備がないサ高住は約8割を占める。その原因を分析すると3つ事情が関わっていた。

1つ目は、法的規定である。共用部分にキッチン設備があれば、居室になくてもサ高住の登録認可が下りるのだ。「高齢者の居住の安定確保に関する法律」には「共用部分に居室と同等以上の居住環境が確保される場合には、居室には要しない」という例外規定がある。

2つ目は、サ高住の運営者側の事情である。サ高住の建設費に多額の国庫補助金が支給された時期と相続税の優遇措置の時期が重なった。こうした背景から多くの異業種が参入し、施工管理の効率化や工事予算の縮減を優先する運営者が現れた。

3つ目は、家族側の事情である。共有部分にキッチン設備があるサ高住は、家族が負担する入居費用を抑えた上に安全性が高い居室環境である。これは、家族が入居の条件として優先する事項と合致する。入居者の意向や身体機能の低下よりも、見守る人がいない居室内でキッチン作業中に事故を起こすことのほうが、家族にとっては心配である。そうした家族の思いが、安全性重視の選択をする結果となる。

現状を改善するための対策は、こうした高齢者の存在が見過ごされてきたサ高住の状況を発信することだ。まず、現状とその問題点を発信する。具体的には、共有部分にキッチン設置があるサ高住について、キッチンの設置場所と使用状況を調査する。それと共に、家族に遠慮せざるを得ない高齢者の生の声を拾い上げ、問題点を整理する。次に、サ高住の運営者や高齢者家族、更に高齢者自身に向けて、キッチン設備を居室に設置することの必要性を発信する。食生活を営むための身体機能を低下させない居室環境が、高齢期の心身の健康にとって重要だからである。

こうした活動によって情報を共有し、問題意識の気運を高めて、社会を動かすのである。

 


 

2024-06-09
「男女共同参画社会」を実現するために思うこと

 

男女共同参画社会の実現を阻むものは、日本の社会が性別役割分業意識から脱却できないことである。日本のジェンダーキャップ指数のレベルが下位なのは、特に、日本の「経済分野の取組の遅れ」が要因にある。

例えば、男性が「育児に参加したい」女性が「キャリアアップしたい」と望んでも、その思いを実現できない職場が多い。若い世代の働き方を「男は仕事、女は家庭」で管理する意識が日本の企業にあるからだ。このような現状は、自分が育った時代の家族や働き方のモデルを現代のモデルに刷新できない上層部の意識に起因するのだろう。

それでは男女共同参画社会を実現するために我々はどうするべきか。経営者や管理職を対象に、ロールモデルから新しい行動様式を学び取る研修を行うのである。講師はモデルとなる「新しい管理職」に依頼する。例えば、家事や育児、介護も担う部下のキャリアアップを支援した管理職である。この研修を通して、受講者は「新しい管理職」が企業側のメリットになることに気づき、自らの言葉で自社の新しい組織について語ることができるようになれる。そうなるために、研修の内容や方法には工夫が必要だろう。成功した取組みには国が助成金を支給すると共に、成功事例を全国に周知して普及させるのである。 

こうして性別役割分業意識を職場から変え、我々は男女が共に活躍できる男女共同参画社会を実現するべきである。


 

2024-04-01
「紅麹」サプリ問題で思うこと

−サプリメントのリスクとどう向き合えばよいか−

 

国が定める分類では、サプリメントは「食品」であり「医薬品」ではない。しかし、サプリメントを食生活へ取り入れる際は、「医薬品」レベルの慎重さが必要である。

たとえば、一日に体内へ取り込める量の安全性を考えてみよう。通常の食品は「満腹になる量」が摂取量の限界量である。つまり、一日に体内へ取り込める量は「満腹」サインで歯止めがかかる。これは通常,安全な取り込み量の範囲内である。しかし、このサインはサプリメントには通用しない。規定の量を摂取しても「満腹」にはならないからだ。「1日の摂取目安量を守って下さい」という表示はあるが、より効果を得たい欲求に流され表示に従えない人もいる。サプリメントの中には成分を濃縮したものや栄養素を強化したものが多く、普通の食品感覚で摂取すると特定の成分が体内へ過剰に取り込まれるリスクがある。「サプリメントは医薬品レベルの扱いが必要だ」という慎重さがあれば、それが過剰摂取の歯止めとして働くはずである。

問題は、こうしたサプリメントのリスクが消費者へ十分周知されていないことである。

以前、ジャガイモ料理を食べた家族が食中毒を起こした報道があった。その時、「皮が緑色のジャガイモには毒性の強いソラニン含有の可能性あり、腹痛や吐き気の原因になります。暗所で保管しましょう。」といった報道が大々的にされた。これを聞いた消費者は、商品棚のジャガイモの中から「皮が緑じゃないもの」を選択するようになった。つまり、陳列された商品の安全性を疑い、適切な判断基準で商品を選ぶ行動に変容したのだ。一方、サプリメントによる健康被害が起きた時を振り返ると、企業の責任や国の制度など販売者側の現状を問いただす情報と比べ、消費者側の行動に注意を促す情報は影が薄かった。リスクはむしろ、安全なはずの食品のほうが周知されているのが現状である。

厚生労働省の「2019年 国民生活基礎調査」によると、「サプリメントのような健康食品を摂取している人」の割合は調査対象者の2〜3割程度であったが、そのうち約1割が成長期の6歳〜19歳であった。また、「就労成人におけるサプリメントの使用実態と意識についての検討」では、「サプリメントの使用に際して専門職のアドバイスを受けた人が少なく、その効果を実感しないまま使用している人が多かった」と報告している。

これらの結果から、就学時の親子にはサプリメントに関する情報を提供する必要がある。具体的には、食育の観点からサプリメントを利用することの是非や、助言が得られる専門家や公的機関の紹介などリスクを回避する対応を伝えるべきである。また、今回のようにサプリメントによる健康被害が起きた時は、消費者側にも、科学的根拠に基づくサプリメントの選び方や、日本臨床栄養協会に認定されたNR・サプリメントアドバイザーの資格を持つ専門家がいる店舗情報、検査結果や体調などに基づきサプリメントを処方するサプリメント外来の存在など周知していくべきだろう。

参考文献

厚生労働省「2019年 国民生活基礎調査」

就労成人におけるサプリメントの使用実態と意識についての検討:日本プライマリ・ケア連合学会誌 2011.vol.34 no.1,p.38-47